絵の具の匂い [第6話] - 役に立つ徒然日記

英検1級を持つ焚火伝道師。得意技は軟骨クラッシュと頬骨スパイラル。これから海外に行く若者や海外で生きてきた大人に贈るアホアホしみじみ話の数々! 一度読んで見てね。

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絵の具の匂い [第6話]

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海沿いの国道を潮風に吹かれて彼女と並んで歩くうちに俺は序々に気を取り直していた。外は日差しが眩しく、ビーチに向かう道沿いにはレストランやカフェが並び賑わっていた。

歩きながら彼女は、この海沿いの街にはギャラリーもありアーティストもたくさん住んでいるのだと教えてくれた。自分もいつかここのギャラリーで個展を開きたいのだと言った。

その後で知ることになるが、St.Kildaと呼ばれるこの地区は昔はレッドライト・ディストリクト(いわゆる赤線地域)だったのだが、その後アーティストやミュージシャンが住むようになり段々と変貌を遂げ、その頃には既に文化の発信地的存在になったのだった。しかしビーチに向かう途中にまだまだ怪しい店もいくつかあり、崩れた感じの人間も目に付いた。

このへんが日本の海水浴場との違いだなあと思う。日本の海水浴場はどこか家族のためのものという健全なイメージがあるが、海外のビーチは裏通りに入ると何か退廃的なムードがある。

例の「ホテルカリフォルニア」の怪しいイメージとでも言えば良いだろうか。昔その曲の題名しか知らなかった時には、ホテルで過ごした愛の思い出的な哀愁の曲だと勝手に思っていたが、いざ歌詞がわかるようになると「そういうアレかよ」と思ったのを覚えている。St.Kildaの裏通りには(実は表通りにも)いくつか大きな Brothel があり、どこか俺の持っているイーグルスのあの曲のイメージと重なった。

***

しかし、白い砂の続くビーチから見える海は穏やかで、吹く風が気持ち良かった。そしてそのまま国道脇の遊歩道に入りしばらく歩いていくと、まるでヘタウマ絵のような超巨大な男の顔が見えてきた。それが Luna Parkの入り口だった。その男の口の部分が遊園地のゲートになっているのだが、その顔はまったく可愛げがなかった、というかどちらかというと怖かった。

遊園地ならもう少し可愛いキャラクターにすれば良いものを、まるでジャック・ニコルソンのような初老の男が開けた大きな口が入り口になっているのだ。遊園地のシンボルとしては妙にシュールだった。

Luna Parkは入場料無料でゲートは開放されていた。乗り物や設備を使わない限りお金を取られず、誰でも自由にそのジャック・ニコルソンの口を出入りできるようになっていた。中は昔の映画で見たことのあるような本当に古い遊園地で、外周の塀がローラーコースターのレーンになっていた。

彼女が「いつも散歩に来ているが乗り物には一度も乗ったことがない」と言うので、じゃせっかくだから何かに乗ってみようということで、その外周を回るローラーコースターに乗ることになった。

世界で一番古いローラーコースターだと言う。近くで見るとコースも車体もとても古い。一体もともと何色だったのかと思わせる不思議な色だった。ベルトは何か飛行機の座席ベルトのような簡単なものだったように思う。俺は大丈夫かなと思ったが、一緒に乗ってみた。

感想は「おそい!」の一言である。 全然怖くないのである。しいていえば車体やレーンが木製なのでそこだけは怖いという感じである。

そして次に、おばけ屋敷のようなものに入ってみた。そこでの感想は「しょぼい!」の一言につきる。 人が通ると自動的に何かが目の前に出てくるというような仕組みのようだったが、明らかに出てくるらしきところが判るし、しかも古い機械のせいか、脅そうとして出てくる前に「ガッチャン」などという音がするのでわかっちゃうのである。

そして、そのガッチャンポイントがいくつかあって、ふと気がつくともう出口という具合だった。しかしまあ彼女はそれなりに驚いて楽しんでいるようだった。

体を使うゲームも多かった。バスケットボールを時間内にいくつシュートできるか、的にいくつ弾を当てられるかというような類のものである。その点数に応じてチケットのようなものが出てきて、集めた枚数に応じて賞品がもらえるというシステムである。その商品はというと、ゴムで出来た動物や昆虫だったり、何か良くわからないビーズの飾りのようなものだったり、一言でいえば「いらない!」という感じのものばかりだった。

しかし地元の人に愛されてずっと続いていると言うのもよく判る。Luna Parkの中ではとにかく時間がゆっくりと流れていて、子供連れで行くにはちょうどいいのだろう。何に急き立てられることもなくゆっくり時間を過ごし、気が向いたら何かを食べながら楽しく話をするという文化にはぴったりなのだ。俺たちもソフトクリームか何かを食べ話をしながら敷地の中を歩いた。

そして歩き回り疲れると直ぐ横のビーチに行き、羽織っていたシャツを脱ぎ砂浜に腰をおろした。 彼女は、夏になると毎朝このビーチまで散歩するのだといった。

「夏は毎朝ビーチを清掃車(Beach Cleaning Tractor)が走るから、砂浜の足跡が消されてまるで砂漠のようになるの」

彼女は嬉しそうな顔でそう言った。

つづく
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※ 中断していたこの話、また書き始めました。


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ひとこと

2016年の冬は暖かい日が多かったですね。もうすぐ春です!